「とりあえずSNS広告を出してみよう」「インフルエンサーに依頼しよう」「AIでコンテンツを大量生成しよう」——こうした言葉が飛び交う現場は、今もなお多く存在します。
実行手段が増え、AIの登場によってプロモーションの”実行コスト”は劇的に下がりました。しかしその結果、本来最初に問われるべき問いが、後回しにされるようになっています。
それは、「誰に・何を・なぜ届けるのか」という問いです。
この問いに答えるのが、顧客戦略です。顧客戦略を持たないプロモーションは、海に向かって叫ぶようなもの。声は出ていても、届けたい人には届きません。
本記事では、プロモーションを実施する前に顧客戦略を策定することの重要性と、その核心にある「一次情報の収集」について解説します。
多くの企業が陥るパターンがあります。「競合がやっているから」「流行っているから」という理由でプロモーション施策を選び、予算を投下する。結果は芳しくなく、「次の手は何だ」と別の施策を探し始める。この繰り返しです。
この問題の根本は、施策の選択肢が間違っているのではありません。判断の根拠となる「顧客理解」が欠如していることにあります。
プロモーションとは「伝えること」ではなく「刺さること」です。刺さるためには、相手が何に悩み、何を求め、何がきっかけで動くのかを知らなければなりません。その情報を体系的に整理したものが、顧客戦略です。
顧客戦略を持つことで、次のような意思決定が格段に速くなります。
・どのチャネルに予算を集中すべきか ・どんなメッセージが反応を生むか ・どの顧客層を優先的に獲得すべきか ・既存顧客への追加提案のタイミングと内容
逆に言えば、顧客戦略なきプロモーションは、すべての意思決定が「勘」と「慣習」に頼ることになります。運よく当たることもありますが、再現性がなく、スケールしません。
顧客戦略を策定する際、多くの企業が最初に手をつけるのはペルソナ設計や市場分析です。しかしこれらは「仮説」であり、「事実」ではありません。
最も確実な出発点は、今現在、自社のサービスを利用してくれているお客様の声です。
なぜそのお客様は、他のサービスではなくあなたのサービスを選んだのでしょうか。その答えの中に、自社サービスの本当の価値が隠されています。
▶「提供している価値」と「感じてもらっている価値」はズレている
サービス提供者が「これが強みだ」と思っていることと、顧客が「だから選んだ」と感じていることは、多くの場合一致しません。
たとえば、あるBtoB企業が「サービスの豊富さ」を強みと位置づけてプロモーションをしていたとします。しかし実際に顧客にインタビューをしてみると、「初期設定を手伝ってくれるサポートが手厚かった」「担当者のフォローアップが他社より丁寧だった」という声が多数出てくる——こういったことが頻繁に起こります。
このズレに気づかないまま「サービスの豊富さ」を訴求し続けると、本当に刺さるメッセージを発信する機会を永遠に失います。
逆に気づけると、「サポートの手厚さ」こそを全面に出したプロモーションに切り替えることができ、同じ予算でも成果が大きく変わります。
では、そのズレに気づくにはどうすればいいか。答えは一つです。
お客様に直接話を聞くことです。
アンケートでもある程度の情報は得られます。しかし数値や選択肢からは見えてこない「なぜそう思ったのか」「どんな文脈で決断したのか」という深層心理——インサイトは、対話の中にこそ宿っています。
顧客インタビューで聞くべき核心的な問いは、次のようなものです。
・「このサービスを利用しようと思ったきっかけは何でしたか?」 ・「他のサービスと比較しましたか?最終的にここを選んだ決め手は?」 ・「導入前に不安はありましたか?それはどう解消されましたか?」
これらの問いへの回答が、プロモーションの設計図になります。
▶ インタビューで明らかになる4つの要素
【購買トリガー(何が動機になったか)】 「予算が余った」「担当者が変わった」「競合のトラブルを見聞きした」など、外部環境の変化が意思決定を促す場合が多い。どんなタイミングで検討が始まるかを知ることで、広告配信のタイミングや訴求文言を最適化できます。
【評価基準(何で比較したか)】 価格・品質・サポート・実績・口コミなど、顧客が重視した軸を知ることで、訴求すべきポイントが見えてきます。「なんとなくよさそう」ではなく、「他社と比べてここが決め手」という具体的な基準を把握することが重要です。
【障壁と解消法(何が迷いで、どう解消したか)】 「価格が高い気がした」「本当に効果があるか不安だった」という懸念と、それが解消されたポイントを知ることで、Webサイトや営業トークの改善点が明確になります。
【顧客自身の言葉(言語化)】 顧客が使う言葉は、そのままコピーライティングやSEOキーワードになります。社内の”専門用語”ではなく、顧客が自然に使う言葉で語ることが、刺さるコンテンツの源泉です。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、コンテンツ制作・広告文の生成・SNS投稿の量産・メールの自動化など、プロモーションの「実行」部分は急速に民主化されました。以前は専門家チームに依頼していた作業が、一人でもこなせる時代になっています。
これは大きな進化です。しかし同時に、ある問題が浮き彫りになっています。
AIは「入力されたものをもとに、それらしいものを作る」ことは得意ですが、「そもそも何を入力すべきか」を自社のリアルなビジネスから見つけ出すことはできません。
AIに「うちのサービスのプロモーション文を作って」と伝えても、それはあくまで一般的なパターンの組み合わせです。本物のインサイト——「なぜ顧客が選んだのか」「どんな言葉に反応するのか」——は、AIが推測できるものではなく、実際の顧客との対話から得られるものです。
AIは「伝える力」を与えてくれます。しかし「何を伝えるべきか」という一次情報は、人間が現場で取りに行かなければなりません。
一次情報の質が高ければ、AIはその力を何倍にも増幅させます。一次情報が薄ければ、どれだけAIを使っても薄いプロモーションにしかなりません。
つまり、AIの活用が当たり前になった今こそ、一次情報の蓄積が最大の競争優位になります。競合も同じAIツールを使っている時代に差をつけるのは、どれだけリアルな顧客理解を持っているかです。
【ステップ1:優良顧客を特定する】 まず「インタビューすべき顧客」を選びます。継続利用している・満足度が高い・紹介してくれたことがある、といった条件で5〜10名をリストアップしましょう。自社に最も価値をもたらしてくれている顧客の声が、最も重要な示唆を持っています。
【ステップ2:構造化インタビューを実施する】 30〜60分のオンラインまたは対面インタビューを行います。事前に質問設計をし、録音・文字起こしを行いましょう。「なぜ?」「たとえばどういう場面で?」と深掘りすることで、表面的な感想ではなく、行動の根拠となる本音が引き出せます。
【ステップ3:パターンを抽出し、インサイトに変換する】 複数のインタビューを横断して共通するキーワード・感情・状況を整理します。「〇〇という状況にいる人が、△△という不満を抱えていて、□□がきっかけで購買する」というストーリーに落とし込むことで、再現性のある顧客像が描けます。
【ステップ4:顧客像・メッセージ・チャネルを定義する】 インサイトをもとに、ターゲット顧客像・刺さるメッセージ・届けるべきチャネルを整理します。これがプロモーション施策すべての根拠になります。ここまで来て初めて、AIツールや広告運用に投資する意味が生まれます。
プロモーションの成否を左右するのは、次の順番です。
1. 顧客インタビューによる一次情報の収集 2. インサイトの抽出と顧客戦略の策定 3. 戦略に基づいたメッセージ・チャネル設計 4. AIなども活用した効率的なプロモーション実行
④から始める企業が多い中、①〜③をしっかりやり切った企業は、同じ予算でも圧倒的に高い成果を出せます。
「うちはもうAIでコンテンツを出せている」という方にこそ、問いかけたいのです。そのコンテンツは、本当に顧客のインサイトに基づいていますか?
その問いに自信を持って答えるためには、顧客の声という一次情報に戻るしかありません。まず5名のお客様に話を聞いてみてください。そこから見えてくる景色は、きっとこれまでとは変わります。
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